A CAT'S EDEN

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【落語】つきあい

よくサラリーマンが「つきあい」などと言って、仕事明けに会社の仲間とお酒を飲みに行ったり麻雀を打ったりなどします。

誘うときは相手と直接会って「今日これでもどう?」などと言いながら、お酒の場合はお猪口を傾ける仕草をしたり、麻雀なら牌をつまむ仕草をしますね。

その仕草に関する話です。

 

 佐藤

「いやー今日は定時で上がれそうだ、よかった」

「最近忙しくって、昨日も一昨日も9時まで残業しちまったからなぁ」

「よし、久しぶりに鈴木でも誘ってみるか」

「酒でも・・・いや、酒は医者に止められてたな、あぶねえあぶねえ」

「じゃあ麻雀でも・・・いや、麻雀は2人じゃできねえな」

「他はみんな忙しそうだし・・・」

「お、じゃあたまにはアレにでも誘ってみるか」

 

 

鈴木

「あ、先輩、お疲れ様です」

 

佐藤

「おう、お疲れ」

「お前今日定時であがれるか?」

 

鈴木

「あ、はい、大丈夫です!」

「ひょっとしてコレですか?」

(お猪口を傾ける仕草)

 

佐藤

「いや、酒は止められててな、今日は違うんだ」

 

鈴木

「じゃあコレですか?」

(麻雀牌をつまむ仕草)

「あと二人が集まるかどうか分かりませんが・・・」

 

「いや、麻雀でもなくてだな」

「たまには、コレだ。コレなんてどうだ?」

(両手で聞き耳を立てる仕草)

「お前今度行ってみたいって言ってただろう」

 

鈴木

「え?それって・・・」

「・・・」

「ああ、わかりました!」

「私が行きたいって言ってたヤツじゃないですか。」

 

佐藤

「おお、じゃあ仕事後な」

 

鈴木

「はい、楽しみにしてます!」

 

 

 

鈴木

「先輩、遅くなってすみません」

 

佐藤

「おう、十分くらい気にすんな」

「それじゃ行くか」

 

鈴木

「はい、行きましょう」

「いやー、まさか先輩から誘ってくれるとは思いませんでしたよ」

「ありがとうございます」

 

佐藤

「はは、俺も久しぶりに行きたくなってな」

 

鈴木

「ちょうどよかったです、前から一度は行ってみたかったんですよ」

「猫カフェ!」

 

佐藤

「ん?」

「お前今何て?」

 

鈴木

「え?」

「ですから、行った事なくて、楽しみにしてたんですよ」

「猫カフェ!」

 

佐藤

「おい!」

「誰が猫カフェなんか行くっていったんだ!」

 

鈴木

「え、だって先輩こうやって・・・」

(両手で聞き耳を立てる仕草)

「これって、猫カフェのことじゃなかったんですか?」

 

佐藤

「馬鹿野郎!」

「仕事後に男二人で猫カフェ行こうなんて誘うか!」

「注意して聞いているってことを表してるんだ」

「寄席だよ寄席、落語でも聞きに行くかってことだろ、まったく!」

 

鈴木

「あ、なーんだ、落語ですか」

「確かに寄席にも行ってみたいっていったことがありましたけど」

「だって手をこうするから、猫ってことで、猫カフェに行こうって意味かと思いましたよ」

(両手で聞き耳を立てる仕草)

「こうされたら10人が10人とも、犬に聞いたって猫のことだって言いますよ」

「先輩、もっと分かりやすい仕草でやってもらえませんか」

 

佐藤

「なんだ、随分言うじゃねえか!」

「じゃあお前、他に分かりやすい仕草があるならやってみろよ」

 

鈴木

「落語なら先輩、これに決まってるじゃありませんか!」

(蕎麦を食べる仕草)

※「時そば」という落語の演目で演者が蕎麦を食べるシーンがある

 

佐藤

「ああ、なるほど、確かにその通りだ、それがいい!」

「お前は頭がいいな」

「じゃあコレでも行くか!」

(蕎麦を食べる仕草)

 

それから頻繁に「コレでも行くか」と蕎麦を食べる仕草をもって寄席に行く約束をし合う佐藤と鈴木であったが・・・

 

 佐藤

「おう、お疲れ」

「今日もどうだ?コレ」

(蕎麦を食べる仕草)

 

鈴木

「はい、是非行きましょう!」

 

部長

「お疲れさん、お疲れさん」

 

佐藤

「これは部長、お疲れ様です」

 

鈴木

「お疲れ様です」

 

佐藤

「アメリカに出張されてたと聞いていますが、戻られたんですね」

 

部長

「うん、昨日戻ってきてね」

「やっぱり日本は、落ち着くねえ」

「ところで君たち、今日コレなのかね?」

(蕎麦を食べる仕草)

 

鈴木

「あ、はい!」

 

佐藤

「仕事後に二人で行こうって話をしてたとこです」

 

部長

「ちなみに、江戸の方かい?」

 

鈴木

「え?」

 

佐藤

「え、あ、はい、江戸ですが」

 

部長

「おお、そうかね」

「いやあ、アメリカに行ってたんだけど、どうも肌に合わなくてずっと日本が恋しくてね」

「もし邪魔じゃなければ、私もコレ、一緒に行ってもいいかね?」

「日本の趣を味わいたいんだ」

(蕎麦を食べる仕草)

 

佐藤

「はい、もちろんです!」

 

鈴木

「よろしくおねがいします!」

 

部長

「おお、それはよかった、楽しみにしているよ」

「場所は君たちがいつも行っている所でいいから」

「それでは定時後ね」

 

佐藤・鈴木

「はい、お疲れ様です!」

 

佐藤

「いやあ、びっくりしたな」

「まさか部長と行くことになるなんて」

 

鈴木

「そうですね」

「部長と仲良くなる滅多にない機会ですよ」

 

佐藤

「これで俺たち、出世も近くなったかもしれないな!」

 

佐藤・鈴木

「はははは」

 

そして一時間後

 

鈴木

「先輩、先輩!大変です!」

 

佐藤

「どうした、そんなに慌てて」

 

鈴木

「はぁはぁ、あの、違ってたんです!」

「あの・・・」

 

佐藤

「一旦落ち着け、落ち着いて話せ!」

「どうしたんだ?」

 

鈴木

「あの、隣の席のヤツが、部長が話してるのを聞いたって・・・」

「部長、今日僕たちと仕事後に蕎麦を食べに行くのを、すごく楽しみにしているみたいです!」

 

佐藤

「な、何だって?」

「落語じゃなくて?」

「確かに江戸かどうか聞かれて変だと思ったが、江戸落語かどうかって意味じゃなかったのか!」

 

鈴木

「はい、今考えたら、ラーメンか蕎麦かを質問してたんだと思います」

 

佐藤

「どうする、定時まで時間が無い」

「俺は部長が喜ぶような蕎麦屋なんて知らねえぞ」

 

鈴木

「ぼ、僕も全然心当たりありません」

 

佐藤

「さ、探せー!」

「の、残りの仕事は全部明日に回して、蕎麦屋を探すぞ!」

 

 そして蕎麦屋にて

 

部長

「いやあ、とても美味しい蕎麦だった」

「君たちのお陰で、久しぶりに日本を味わえたよ」

「仕事も安心して任せられそうだね、期待しているよ」

「ではちょっとトイレに失礼」

 

鈴木

「先輩、良かったですねぇ」

 

佐藤

「ああ、久しぶりに肝を冷やしたが、ギリギリで店が見つかって良かった」

「蕎麦も美味しかったようだしな」

「仕事も任せられそうだって言われちまったよ、はは」

「良かった良かった」

 

部長

「ふう、待たせたね」

「そろそろ出ようか」

 

佐藤・鈴木

「はい」

 

部長

「ところで、いきなりで申し訳ないんだが、君たちこの後の予定は?」

 

佐藤

「いえ、特にありませんが」

 

鈴木

「はい、私もありません」

 

部長

「おお、そうかね」

「実は前から行きたい所があったんだが、一人じゃ行きにくくてね」

「折角だから、一緒に行ってもらえないかね?」

 

佐藤

「はい、喜んでご一緒させていただきます!」

 

鈴木

「私もお供いたします!」

「ところで、一体どちらに・・・?」

 

部長

「そうか、では皆で行こう!」

「実はコレなんだが・・・」

(両手で聞き耳を立てる仕草)